女性の一生の中で女性ホルモン(エストロゲン)は重要なパートナーとして働いています。10~13歳頃に初潮を迎えて以降、排卵/受胎/妊娠/出産のための機能として20~30歳代では女性ホルモンが豊富な時期になります。50歳前後に閉経に至りますが、閉経の時点で突然女性ホルモンがなくなるわけではありません。40歳代で女性ホルモンの分泌機能は低下を始め不調になり、不調の最終形が50歳頃の閉経と考えて頂ければよいと思います。閉経に至ると女性ホルモンが低下して更年期症状が出現してきます。また骨量の低下、脂質代謝異常および動脈硬化、外陰腟や子宮などの生殖器・膀胱尿道などの泌尿器の萎縮などが閉経期以降徐々に進んでいきます。老年期では女性ホルモンの長期にわたる自然な低下により骨粗鬆症、萎縮性腟炎、排尿異常などに留意していくことになります。
 このように年齢に応じてホルモンに関連した症状は移り変わっていきます。女性健康外来では女性ヘルスケア専門医の下で、年代の特質に応じ対応してまいります。


若年期 ( 20~30歳代 ) の方へ

若年期での月経異常で代表的なものは月経困難症です。軽度の月経痛は若年層でなくても多く見られますが、月経痛の程度がひどいものを月経困難症ととらえ、この時に嘔気、下痢、頭痛、腰痛などを伴うこともしばしばです。診察では特別な異常が見られない機能的月経困難症であることも多くみられます。治療としてはLEP製剤(低用量ピル)が使われることが多いです。アスリートでは成績安定のため月経困難症がない場合でも有用な薬剤ですが、働く女性も戦うという意味ではある一面"アスリート"です。月経痛のコントロールに困っている場合などはLEP製剤を適応しても良いと思われます。ただし薬剤である以上は当然ながら問題点を含んでいます。服用による血栓症のリスクがあります。静脈血栓症の発生率は1%以下ですが、危険な合併症として認識する必要があります。喫煙者では血栓症や心血管異常を生じる可能性が高くなるためピルの服用をお勧めすることはできません。特に35歳以上で1日15本以上の喫煙がある方にはその危険性から投与が禁止されています。LEP製剤の服用には、喫煙以外にも投与のための様々な条件があるので担当医と良く相談する必要があります。LEP製剤の服用者は以下の ACHES を理解し、問題な症状があれば受診することを躊躇しないようにします。

A : Abdominal pain、腹痛  C : Chest pain、胸痛  H : Headache、頭痛  E : Eye/speech problems、眼症状/構語障害  S : Severe leg pain、下肢痛


具体的には、激しい腹痛、激しい胸痛、息苦しさ、胸苦感、激しい頭痛、見えにくい、視野が狭い、舌のもつれ、けいれん、意識障害、ふくらはぎの痛み・発赤・腫脹・むくみ、などが挙げられます。
 LEP製剤が用いられるこの他の疾患としては、PMS(月経前症候群)やそのうち特に精神症状の強いものであるPMDD(月経前不快気分障害)が挙げられます。症状としては、イライラ感、うつ症状、不安、倦怠感、むくみ、睡眠障害・眠気、乳房の緊満感、腹満感・便秘、その他など多彩な症状があります。排卵を抑制すれば改善することが多いためLEP製剤が繁用されますが、その他漢方療法、利尿剤、精神安定剤、選択的セロトニン再取り込み阻害剤なども用いられます。
 LEP製剤を中心に若年者の異常につき述べましたが、その他に排卵異常、月経不順、無月経なども診療の対象となります。また中年期に記述している子宮筋腫や子宮内膜症も当然生じえます。

中年期 ( 30~40歳代 ) の方へ

40歳代に入ると徐々に卵巣機能が低下傾向を示していきます。それに伴いホルモンの分泌に変調があり不正出血などを起こすことも増えてきます。不正出血は子宮がんの症状でもあるので子宮がん検査はきちんと行っておいた方が良い年代であります。この年代では月経周期が早まってくることがあり、28日周期だったものが23~25日周期などになる方も少なくありません。月経の頻度が増えれば合計の出血の総量も増え、かつ回復までの時間も短くなるので、貧血になりやすい時期にもなります。中年期に入ってくると月経の異常が機能的なものから器質的異常(腫瘍などにより不具合を生じている状態)へと割合が増えてきます。貧血を来す疾患で頻度が多いものではやはり子宮筋腫による過多月経であります。子宮筋腫の治療としては、月経を止める(更年期症状などの副作用がある)、LEP製剤を服用する(40歳以上では血栓症発生のリスクから開始する場合は慎重投与の対象になる)、手術療法(手術を受ける決意およびスケジュール調整が必要)、などが挙げられますが、一長一短であり最良のものを決めかねることが多いようです。子宮内膜症も多い疾患で、器質的な月経困難症や下腹痛、また過多月経などを来すことがあります。薬物療法にはLEP製剤(低用量ピル)、黄体ホルモン製剤などが汎用されます。LEP製剤は前述の通り40歳代での開始は積極的には勧められません。黄体ホルモン製剤は効果的ですが一部の患者様では薬剤による不正出血で継続できない場合があります。手術療法は腹腔鏡手術を選択することが多いですが、特に卵巣にできる内膜症/チョコレート嚢胞の場合は積極的に手術適応とすることがあります。チョコレート嚢胞では将来的な卵巣癌への移行の危険性や、あるいはすでに卵巣癌が合併していることもありえるため、大きいものでは薬物療法でなく手術療法が勧められます。手術というものは単に治療だけということではなく、最高の検査であると理解して頂ければよいと思います。

更年期 ( 50歳代前後 ) の方へ

平均的には50歳前後に閉経を迎えるようです。閉経すると女性ホルモンの分泌が急減するため、多彩な症状が出現してきます。血管運動障害と呼ばれる自律神経系の障害としてよく知られている Hot flush/前胸部から頭部にかけての ほてり・のぼせ症状や不安・不眠・うつ症状などの精神神経系症状が代表的です。精神神経系の症状に関しては、閉経期が身体的な問題だけでなく子供が家庭を出て独り立ちする時期に相当し、家庭環境などが大きく変化する時期であることも影響しているとも考えられています。女性は全員閉経しますので、更年期は必ず訪れるのであり治療は不要であると考える方もいらっしゃいますが、生活や仕事に支障があるようであれば治療する価値は十分にあります。治療としては漢方療法や自律神経調整剤等を用いることも多いですが、切れ味の良い治療としてはホルモン補充療法(HRT)が挙げられます。Hot flush などはホルモン補充療法によりすぐに軽快することが多いです。HRTも女性ホルモンによる治療であるため、LEP製剤と同様に血栓症を含めた副作用も存在し、適用に制限のある方もいらっしゃいます。効果的な治療ですがやはり担当医とよく相談してから開始すべき治療であります。特に女性におけるがん発生数最大の乳癌との関連性については様々な見解があるため、投与方法や投与期間などをよく検討する必要があります。LEP製剤やHRT療法に関しては学会が策定した治療ガイドラインがあり、それに準拠して治療していくことになります。
 * 閉経による女性ホルモンの低下で、閉経直後は骨塩量が急激に低下する時期となります。自分の骨の現状や骨折リスクを知るうえで、閉経期の骨塩量測定は勧められる検査であることも補足します。

老年期 ( 60歳代以降 ) の方へ

老年期においては閉経後から長期間の女性ホルモン欠乏状態の影響で、外陰腟や泌尿器などの萎縮症状が顕著にみられてくることがあります。腟萎縮では不正出血や帯下異常をみることがありますが、それは萎縮性腟炎であることが比較的多いようです。不正出血であるのでもちろん子宮がん検査で子宮に悪性疾患がないことが確認されていることが望ましいです。治療としてはE3製剤(エストリオール/女性ホルモン剤の一種)の腟錠あるいは内服薬を用いることが一般的です。子宮萎縮の影響としては子宮頸管(子宮の出入り口)の閉鎖や狭窄を背景とした子宮留水症というものがあります。高年者の場合はしばしばみられる所見ですが、これに感染を起こすと子宮留膿症という病態に変化することがあります。この場合は発熱や下腹痛などの症状が強く出ることがあるので入院加療を要することがあります。また子宮留膿症の場合は背景に子宮頸癌や子宮体癌が隠れていることがあるので注意を要します。
 萎縮性変化だけの要因ではありませんが、高年者では骨盤臓器脱という疾患がよく見られます。これは背景に経腟分娩の経験があるのが通常です。妊娠・分娩により子宮を支えている靭帯はダメージを受けますが、ここに加齢性変化が加わり脆弱になると子宮が分娩と同じように腟から降りてくるようになります。これが子宮脱です。子宮と膀胱はつながっており、子宮脱の際には膀胱も一緒に引きずって来ることがあり、そうなると腟から外陰部に向けて腟粘膜に包まれた風船のようなものが出てきます。これは膀胱瘤と呼ばれています。子宮脱や膀胱瘤に対しては、まず保存的にペッサリーというリング状の器具を腟内に留置することが行われます。手術を希望される場合は腟式手術や腹腔鏡手術が選択されることが一般的です。

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