婦人科内視鏡の検査および手術には子宮鏡と腹腔鏡があります。日本産科婦人科内視鏡学会の内視鏡手術技術認定医資格も腹腔鏡技術認定と子宮鏡技術認定とに別の資格として分かれています。当科の婦人科内視鏡外来では両者の認定医資格を有する担当医により実施しています。また生殖医療専門医として不妊治療の一環からの見地で、またさらに女性ヘルスケア専門医としての視点から、内視鏡手術を総合的な立場からとらえて患者様のニーズにお応えする外来として実施しております。


子宮鏡について

胎児を育む場所である子宮は鶏卵の大きさ程度の小さい臓器で、子宮体部と子宮頸部の2部分から成っています。奥にある袋状の部分が子宮体部でありここがまさに胎児が育っていく場所です。子宮の出入り口に相当するのが子宮頸部であり腟に向けて突き出るような位置にあります。子宮の中で育ってきた子供が生まれて出てくることからもわかるように、子宮の内側と体の外側はつながっているので、子宮の中に内視鏡を入れて観察することができます。これが子宮鏡です。子宮鏡によって子宮の内側に生じる様々な疾患を診断し治療することが可能です。


子宮鏡検査

子宮鏡検査は外来の診療として通常の婦人科の診察と同じように行います。検査前の消毒やセッティング等の時間を除いた実際の検査時間は数分です。軟性のファイバースコープで実施する検査であり問題となる痛みはほとんどありませんので、麻酔も必要ありません。


(1)子宮鏡検査の対象

子宮鏡検査はまず先行して実施されている超音波検査で子宮内腔異常(子宮の内側に腫瘍がある、形がおかしい、子宮内膜の厚みが極端に厚いあるいは薄い、等)を認めたものに適応するのが一般的です。子宮鏡検査が有用な症状や状態は、月経の経血の量が多く止まりにくい(過多月経)、不正出血がある、不妊あるいは不育である、子宮体がんが疑われる、などが挙げられます。


(2)子宮鏡検査で見つかる疾患

子宮粘膜下筋腫(子宮筋腫のうち子宮内腔に大きく突出しているもの)、子宮内膜ポリープ、子宮奇形(特に中隔子宮)、子宮腔癒着症などが代表的な疾患です。

子宮の壁は内側から、粘膜あるいは内膜(周期的に変化し月経時に剥れて出血する部分)、筋層(実質的に子宮の壁を構成する部分)、漿膜(最外側の膜で子宮を覆う外殻)からなっています。粘膜下筋腫や内膜ポリープを有する方では月経に直接関連している内膜に腫瘍が突出しているため、不正出血、過多月経(経血量が著しく多くなる)、過長月経(出血が続く期間が長くなる)などの症状が現れることがしばしば見られます。特に粘膜下筋腫では過多月経により日常生活に支障が出るような高度な貧血にまで至る場合も珍しくありません。さらに妊娠の過程において胎児は子宮内腔をおおっている子宮内膜をベッドとして発育していきますが、子宮の内腔に異常があるとうまく着床・発育しにくくなり、不妊症や不育症の原因になることがあります。子宮奇形で子宮内腔の形に異常がある場合、子宮内腔に癒着がある場合などもこれに該当します。


(3)子宮鏡検査を行う時期

子宮鏡検査は月経終了後から排卵前までに行うのが最も好ましい時期です。排卵後の(いわゆる基礎体温での)高温期であっても妊娠が完全に否定できるのであれば検査が不可能ではありません。ただし高温期では子宮の内側を覆う子宮内膜が厚くなっており、観察しにくくなったり出血し易くなったりすることもあるので注意を要します。月経周期がある以上は子宮内腔の様子は周期的に変化し続けており、低温期と高温期では子宮鏡所見は大きく変化して観察されます。そのため実施時期については担当医と相談の上で検査予約日を決める必要があります。良い状態で検査するためには検査予約日の変更も事務的に行うことはできず相談が必要になります。


(4)検査当日の流れ

子宮鏡検査は外来での通常の診察である内診と全く同様の条件で行います。まず超音波検査で子宮内腔の状態を再評価してから腟内を十分に消毒し、子宮鏡/ファイバースコープを子宮口から子宮内腔に挿入し、子宮頸管内、両側卵管口、子宮底部の状態を十分に観察して位置関係を把握した後に、病変を確認します。子宮鏡検査が終わった後に電子カルテ上に転送された画像を見ながら検査結果の説明を行い、方針および必要な治療などを検討していくことになります。術後は血圧測定等を含め約30分間の経過観察を行い、問題なければ帰宅できます。通常は感染予防の抗生剤と必要に応じ痛み止めなどの処方があります。帰宅後に体調に問題なければ食事やシャワーの使用に制限はなく、また就労制限もありません。


(5)検査当日の注意事項

① 検査前の注意点

  • 検査の2時間前から検査終了までは排尿しないようにします。
  • 検査当日の食事の制限はなく普段通りでかまいません。
  • 検査に適した脱ぎ着しやすい服装でお越しください。

② 検査後の注意点

  • 検査当日は終日、過激な運動を避けるようにします。
  • 検査当日の入浴はシャワー浴のみとします。
  • 感染予防のための術後の抗生剤は正しく服用してください。
  • 検査後に腹痛が持続する場合は鎮痛剤を処方します。
  • 出血の量、腹痛および発熱の有無が注意ポイントになります。

子宮鏡手術 ( TCR )

腹腔鏡手術はおなかを切らない手術と言われますが、実際は臍(へそ)を含め腹部に数か所の小さい切開を伴う手術です。それに対して子宮鏡は腟から子宮の中にアプローチする方法すなわち経腟的な手術ですので、おなかを全く切らない手術です。


(1)子宮鏡手術の概要

出産の時には子宮内で育ってきた児が腟を経て娩出されます。そのように子宮内は体の外から直接到達することが可能な場所ですので、腟から子宮内へ細い器械を挿入することができます。その経路で子宮内の観察および手術が可能になります。

子宮鏡手術では、レゼクトスコープという手術器械を使用します。この器械は、

  1. 子宮鏡 : 内視鏡部分として子宮内を観察するためのもの
  2. 潅流 : 子宮内腔(子宮の内側)を水圧で広げる、あるいは洗い流すことにより、子宮内腔の視野を確保するためのもの
  3. 電気メス : 子宮内腔の病変を切開したり、出血を凝固止血したりするためのもの

大まかに以上の3要素から成り立っています。

子宮鏡手術は経腟的にレゼクトスコープを挿入して、潅流液で視野を確保して病変を確認し、電気メスで切開や除去、剥離を行い、出血部分を止血することで行います。


(2)子宮鏡手術が適用される主な疾患

子宮粘膜下筋腫 子宮粘膜下筋腫の場合は、過多月経になりやすく貧血に至ることが多くなります。特に40歳代では月経周期(月経と次の月経との間隔)が短くなることで回復がさらに悪くなり状況が悪化することが多くなります。毎回のように月経の量が多い方は婦人科を受診し粘膜下筋腫の有無を見てもらう価値があります。ただし同じ子宮筋腫でも子宮の外側にある筋腫(漿膜下筋腫)などでは粘膜下筋腫と比べて貧血の程度が軽いことが多く、手術する場合でも子宮鏡手術でなく腹腔鏡手術が妥当な手術となります。


子宮内膜ポリープ 子宮内膜ポリープでは外来で摘除することが可能な場合も多いですが、大きいものや多発しているもの、あるいは内膜ポリープの診断が確実でないものに対してはしっかりとした態勢、麻酔で子宮鏡手術を行う方が望ましいと考えます。


子宮腔癒着症 流産手術や子宮内の感染などにより子宮の内側が癒着(本来離れている部分がくっつく)してしまうのが子宮腔癒着症です。不妊症や不育症の原因となったり、ひどい場合には無月経までに至ることもあります。これに対しては子宮鏡手術による癒着剥離で改善を図ることを試みます。


中隔子宮 中隔子宮は子宮奇形であり子宮の内側を二つに分けるような隔壁が存在する状態のものです。中隔子宮の場合妊娠はしますが、妊娠の継続に影響してしまい流産率が高いことが特徴になります。子宮鏡手術により中隔を切除することで流産率を大きく下げることが示されています。


(3)手術スケジュール

当院の子宮鏡手術のスケジュールは2泊3日の入院で行うことを基本とします。子宮鏡を子宮内に挿入して手術を行い、さらに切除したものを子宮の外に搬出するという点から、入院1日目の午後に子宮の出入り口(子宮頸管)を拡張するための処置を開始します。この拡張はラミナリア(水分を吸収すると膨張するもの)などの材料を子宮頸管に留置し一晩かけてゆっくりと広げることで行います。頸管拡張をしない場合は、子宮鏡での手術操作が難しくなるだけでなく、子宮頸管からの摘出物の搬出に無理があれば子宮頸管裂傷などの合併症を引き起こす恐れがあることも理解しておく必要があります。入院2日目に手術を実施します。手術はまず前日からの処置で緩やかに拡張し軟化した子宮頸管を麻酔下で適切な径までさらに拡張します。子宮鏡で子宮内をよく観察精査して手術術式を再確認します。子宮内観察や手術操作のためには子宮内腔を拡げる必要があるので、潅流液(糖液や生理食塩水など)を子宮に注入することで行います。手術は電気メスによる切開、切除、細切などにより行います。手術終了後に必要があれば子宮内腔の術後癒着防止目的で子宮内に留置物を挿入することがあります。これは退院後初回の子宮鏡検査の際に抜去します。


(4)退院後の注意点

退院後に気をつけていただく症状は、主に出血、発熱、下腹痛となります。術後数日の間は軽度の症状があっても問題にならないことがほとんどです。子宮内の手術ですので性器出血がしばらく続くことがあります。もちろん出血が多い場合や高熱、腹痛が強い場合などは遠慮なく外来受診を考慮します。
 退院後の生活について、家事程度のことをすぐに行っても差し支えはありません。体調に応じて普段の生活に戻していきます。手術内容や術後の状態などによっても相違はありますが、通常は約2~3日間の自宅療養が勧められます。ただし出血、発熱、腹痛などの症状が無い場合は、早期復帰も不可能ではないと考えます。
 入浴について、退院後少なくとも約1週間は浴槽に入らずシャワーのみとします。腟からの子宮内への感染の予防という点から、出血などの症状が持続している場合はその後も引き続きシャワーのみとして下さい。
 手術後の月経の発来の時期について、通常は予定通りに来るものと予想されますが、手術の前に月経を止める目的でGnRHアンタゴニスト剤(レルミナなど)を投与した場合は、最後の服用から約30日後に月経が来ると推測されます。またGnRHアゴニスト剤(リュープリンなど)であれば最後の注射から約75~90日後の月経になると思われます。


(5)子宮鏡手術後の妊娠・分娩について

手術後に月経が発来しかつ子宮鏡検査で異常なきことの確認ができれば妊娠の許可となります。性交渉に関しても同様に考えて下さい。
 手術合併症がなければ次回妊娠に対する影響は少ないものと考えています。基本的には特殊な場合を除き自然分娩(経腟分娩)が可能である場合が通常です。手術終了時点での個別の方針に関しては手術担当医と相談して決定することになります。ただし妊娠が成立した場合の分娩様式の最終的な判断は分娩を担当する医師の方針に準ずるものとなり、今回の手術時点での判断より、産科的条件が加味される分娩時の担当医の判断が優先されるものとご理解ください。

子宮鏡画像

子宮鏡下内膜ポリープ摘除術(外来手術)

子宮内膜ポリープは子宮の内側を覆う子宮内膜から発生するもので、10-15㎜程度のものが多く、茎(腫瘍の根元)が太くなく、硬くないため、外来で子宮鏡を用いて摘出することが可能です。子宮の出入り口である子宮頸管は固い通路であり、細いものであっても棒状の硬性子宮鏡による摘出では相応の痛みを伴いますが、当科では柔らかく子宮の形に沿って曲げることのできるファイバースコープを使用して摘除手術を行うため、痛みはほとんどなく原則的に麻酔は必要ありません。また手術前に頸管拡張(子宮の出入り口を拡げる操作)を行う必要もありません。通常の子宮鏡検査と同様な条件で予約日を決めて準備して行うので、手術とはいえ普通の子宮鏡検査を受けるのと大きな差はありません。子宮鏡検査で摘出可能な内膜ポリープであると診断されたらそのまま引き続き内膜ポリープ摘除を行うことも可能です。ただしポリープの位置や大きさ、形状、数などによっては所要時間が多少長くなることがありえます。ポリープが非常に大きい場合や子宮頸管(子宮の出入り口)が狭い方などでは実施が難しくなるため、入院での子宮鏡手術を必要とすることがあります。
 子宮内膜ポリープでは月経の経血が多くなる過多月経や不正出血などの症状が現れることがあります。不正出血などがある患者様は、前提として子宮に悪性の病気がないかどうかを判断する子宮がん検査を受けることが重要ですが、子宮鏡による評価も有用なことがあります。また子宮内腔の形態異常や慢性子宮内膜炎との合併などの理由で不妊症や不育症の原因になることがあります。不妊治療などを行っている患者様で子宮内膜ポリープを疑われた場合は、子宮鏡検査を行い必要に応じ子宮内膜ポリープを摘除することにより妊娠のための条件が好転することがあると考えられています。

腹腔鏡手術

当科では子宮筋腫や卵巣腫瘍等の良性疾患を中心に積極的に腹腔鏡手術を実施しております。川崎市立病院では腹腔鏡手術を1960年代から開始している伝統的な手術であります。1990年代までは実施施設が少ない手術でしたが、現在ではごく一般的な治療法になってきています。良性疾患の手術においては大部分が開腹手術から腹腔鏡手術へと術式が移行してきています。腹腔鏡手術は手術侵襲が少ない手術であり、創部(キズ)が小さく術後回復も速やかであるという利点を有しています。しかしそれは安全に手術を完遂して初めて侵襲が少ないと言えるのであり、一度合併症が発生すれば意に反し一転して開腹手術以上に侵襲の大きい手術となりえます。丁寧な手術を心掛けることは当然なことですが、腹腔鏡手術を選択してよいかどうかを慎重に評価判断することが重要と考えています。
 おなかの傷が小さいことが最重要ということではなく、安全に手術を完結させることが大事であり、そのための手術が腹腔鏡で実施可能であればより良いというコンセプトで対応します。腹腔鏡手術の適応を考えるにあたっては、手術すべき婦人科腫瘍の状態以外に、腹部手術の既往の有無、経腟分娩の経験の有無、体格(高度の肥満など)、他科疾患合併症の有無とその重症度なども評価検討すべき項目になります。腹部手術の既往があるとその手術の影響で腹腔内に癒着を生じていることがあり、その程度によっては手術リスクや難易度に影響します。また以前の開腹術創に加え腹腔鏡の創が加わることになり、美的要素という点では腹腔鏡手術のメリットを生かしきれない可能性はあります。
 適応疾患として代表的なものは子宮筋腫や卵巣腫瘍になりますが、子宮を全摘するのか子宮筋腫だけをとるのか、また卵巣を摘出するのか卵巣腫瘍部分のみ切除するのか、などにつき悩まれる方を多くお見受けします。婦人科内視鏡外来ではこのような部分を含め、経験に基づいて共に考える姿勢で対応してまいります。
 腹腔鏡手術の術後経過について、腹腔鏡手術は侵襲が少ないため、通常生活への早期復帰に向けて、手術翌日から歩行を含め体をよく動くことが勧められます。腹腔内(おなかの中)に炭酸ガスを注入して満たし拡張することで腹腔鏡手術は行なわれますが、術後2日目頃まではその炭酸ガスが腹腔内に残ることが多いため、その影響で起き上がった時の肩の痛みや、皮下気腫と呼ばれる胸腹部皮膚を押したときに感じる違和感(握雪感などと称します)を自覚することがあります。気腹症状は術後3日目頃には軽快していきます。退院後は元通りの生活に早期に戻ることが大事です。仕事に就かれている方では退院後1週間、遅くとも2週間で復帰するのが平均的な術後経過と思われます。


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