(1)子宮頸がん検診の必要性

子宮頸がんの発生に関しては HPV(ヒトパピローマウィルス) が関与します。性的接触によりHPVが子宮頸部に感染して発症していくため、近年は20~30歳代に発症のピークがあります。若年者だから無縁というような状況では全くありません。そのため20歳から検診の対象になっています。
 中高年の方では卵巣機能の低下あるいは女性ホルモンの低下等により不正出血を生じる頻度が多くなります。不正出血についてはがんの症状との区別をつける必要があるため子宮がん検査を行う必要が出てきます。子宮がん検診未実施で子宮がんが否定できていない状態で不正出血を看過するということは好ましくありません。
 子宮頸がん及びその前がん病変である子宮頸部異形成はHPVの感染が原因とされているので、その予防にはワクチンが有効です。現在では接種率が8割を超えてきている国も多く、それらの国では子宮頸がんの発症率が明らかに減少してきています。それに対してわが国では現状で接種率が1%を下回っており、WHOの「15歳までに90%以上の女子が接種する」という目標とかけ離れた状況になっています。しかし我が国もようやく令和4年4月からHPVワクチンの勧奨接種が再開されます。今後の接種率上昇と子宮頸がん発症の減少が大いに期待されます。
 ただしワクチン接種で全て解決するわけではありません。ワクチンにより全ての型のHPV感染を予防できるわけではないので、予防に加えて早期発見が重要になります。また子宮頸がんは早期では自覚症状に乏しくさらに前がん病変では尚更です。したがってここで大きな役割を担うのは子宮がん検診です。定期的にがん検診を行うことは、気付くことのできないHPV感染や初期の病変発見に極めて有効です。大事な健康、子宮そして子供をつくるチカラを守るため是非子宮がん検査を受けて下さい。


(2)子宮頸がん検診の方法

子宮頸部のうち腟に突き出ている部分を子宮腟部といい、この部分に子宮口という子宮の出入り口があります。ここは肉眼的に観察することができます。腟鏡という検査器具で広げてヘラやブラシで子宮口の周辺と子宮頸管内を擦り細胞を採取します。採取に痛みを感じることはあまりないですが、お産の経験のない方や閉経後で腟の粘膜が弱くなっている方などでは腟鏡の挿入に多少の痛みを伴う場合があるかもしれません。粘膜を擦るため出血を伴うことがありますが、通常は少量にとどまり自然に止血します。採取された細胞の標本は病理の専門医により、下記に示すベセスダ分類という診断分類で結果が判定されます。


(3)ベセスダ分類での細胞診の結果

  • NILM 陰性/正常または正常範囲内
  • 細胞に変化がないものが正常ですが、腟炎等による炎症や女性ホルモン低下による萎縮性変化等により細胞の形が変化しているもので良性変化と捉えられるものは正常範囲内として扱われます。
     → 正常でも1~2年に1回程度の定期検診が有用です。


  • ASC-US 意義不明な異型扁平上皮細胞
  • 軽度の異型性あるいは悪性の可能性を疑わせる細胞が出現しているが、採取された細胞数が少ない、変性や炎症の影響がある、あるいは異型性が弱い等の理由で判定が困難な場合
     → ハイリスクHPV検査を行います。HPV核酸同定検査ないしはHPV簡易ジェノタイプ検査が保険適応で実施できます。HPV検査が陰性の場合は1年後の細胞診再検査と良いとされています。HPV検査が陽性の場合は下記のLSILと同様に扱うことになります。ASC-USではハイリスクHPVが約半数で検出されます。また1割程度で中等度から高度の病変が存在すると推測されておりコルポ診・組織診実施が望まれます。


  • LSIL 軽度の扁平上皮病変
  • HPV感染による細胞変化を生じているがまだ軽度な状態。高い確率でHPVが排除され自然治癒していくと推測されていますが、一部ではHPVの持続感染となり前がん病変が進行していくため経過観察が必要です。
     → コルポ診や組織検査で精査を行い軽度の扁平上皮病変であることの確認を行います。コルポ診で明確な病変が指摘されなければ細胞診のみでの経過観察になることもあります。妊娠中の場合は出産後までコルポ診・組織診の延期が容認されています。


    ※ コルポ診:子宮頸部のうち腟に突き出ている部分である子宮腟部は肉眼的観察が可能で、ここをコルポスコープという拡大鏡で病変を観察する検査
    ※ 組織検査(生検): コルポ診で確認される病変を一部齧るように摘出し、個々の細胞ではなく組織の固まりとして顕微鏡で評価する検査


  • ASC-H 高度の扁平上皮病変を除外できない異型扁平上皮細胞
  • 悪性変化の可能性を疑わせる細胞が出現し、高度の前がん病変や初期のがんを否定できないが、確実に診断できる十分な細胞が見られない場合
     → 要精査の対象であり、コルポ診や組織検査で高度病変の有無を明らかにします。


  • HSIL 高度の扁平上皮病変
  • HPV感染による細胞変化が進んでおり、中等度から高度の前がん病変や初期のがんを思わせる細胞像です。頻度は高くありませんが浸潤がんである場合も含んでいます。
     → 要精査の対象であり早期受診が勧められます。コルポ診や組織検査で前がん病変に留まっているのか初期がんまで進んでいるかを判断する必要があり、検査結果によっては円錐切除術やレーザー蒸散術などの治療を行うことが考慮されます。


  • SCC 扁平上皮がん

細胞診で浸潤がんが疑われる状態
 → 早期受診の上でコルポ診や組織検査で確定検査を行い、各種画像検査や腫瘍マーカーなどの精査で進行期を評価し適切な治療を受ける必要があります。

(4)子宮体がん検診

子宮体がんについてですが近年増加傾向にあり、現在では体がんの発症数が頸がんを上回るようになりました。したがって子宮体がんの検査を省略して全く問題にならないということにはなりません。しかし体がんの検査は痛みであるとか出血、感染リスクなどについて頸がん検査と比較して患者様の負担が大きくなるので、現状では市のがん検診などでは必ず行う検査までとはされておりません。
 多くの場合は子宮体がんの発生には女性ホルモンが関わっていると考えられています。肥満傾向のある方、出産経験がない方、無排卵による月経不順の方、乳がんでホルモン療法を行っている方などではリスクの上昇が否めません。その他遺伝子の異常、家族性のものにも注意が必要です。


(5)川崎市の子宮がん検診

当科では川崎市の子宮がん検診を受付けています。平日の毎日、予約制で対応しています。ご希望のある患者様は電話にて予約をお取りすることが可能です。


  • 20歳以上の女性市民
  • 2年度に1回 (前年度に受診していない方)
  • 受診券はありません
  • 子宮頸がん検査として1,000円の自己負担
     子宮体がん検査は医師が必要と認めた場合のみ実施で追加負担800円
  • 70歳以上の方は無料
  • 20歳・21歳の方には無料で受診できるクーポン券が送付されます
     (年齢は、年度中に対象年齢になる方を含みます)
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