(1)子宮頸がんとHPV

胎児を育む場所である子宮は鶏卵の大きさ程度の小さい臓器で、子宮体部と子宮頸部の2部分から成っています。奥にある袋状の部分が子宮体部でありここがまさに胎児が育っていく場所です。子宮の出入り口に相当するのが子宮頸部であり腟に向けて突き出るような位置にあります。子宮頸部は体の内と外を交通する最前線であり、細菌やウイルスなどの侵入を食い止める防御ラインでもあります。性感染症のクラミジアや淋病も子宮頸管炎を起こしますが、HPV(ヒトパピローマウイルス)も子宮頸部に感染を生じます。
 子宮頸がん及びその前がん病変である子宮頸部異形成は、HPVの感染が原因と考えられています。国内では年間約10,000人の方が子宮頸がんにかかり、3,000人近くがなくなっています。また50歳未満、特に20~30歳代の若年女性での増加が問題となっています。子宮頸がんに罹患すると健康状態を阻害するだけではなく、子宮を摘出すれば妊娠への道は閉ざされ、また前がん病変に留まり子宮を残すことができても一部を切除する手術があれば流早産リスクが上昇することがあります。性的接触によりHPVが子宮頸部に感染しますが、避妊具を用いても感染を完全に抑制することはできません。ただし通常の接触で感染することはありません。約50%~80%の女性にHPV感染があると推測されています。多くが無症状で終わりHPV感染が消失しますが、約10%の一部女性で感染が長期間持続し、数年~10数年で前がん病変の子宮頸部異形成を経て子宮頸がんに進行していくと考えられています。


(2)HPV

子宮頸がんの原因ウイルスであるHPVは100 種類以上に分類されますが、このうち13 種類がハイリスク型HPVとして区別されています。
 ハイリスク型HPV: 16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、68型
このうちHPV16型、HPV18型では進行が早く、感染から発がんまでの期間が他の型と比較して短期間であると考えられています。またHPV31、33、35、45、52、58型も進展しやすい傾向があるとされます。これらとは別にHPV6、11型では尖圭コンジローマの発症と関連しています。尖圭コンジローマは外陰部、肛門周囲、腟や子宮頸部などにイボをつくる良性腫瘍ですが、分娩時には産道から消失していることが望まれます。


(3)子宮頸部異形成

子宮頸がんに至る前の段階の前がん病変である子宮頸部異形成はCIN/子宮頸部上皮内腫瘍とも称し、その病変の進み具合により軽度異形成(CIN1)、中等度異形成(CIN2)、高度異形成・上皮内がん(CIN3)に分類されています。
 軽度異形成(CIN1)では80-90%の方で病変が消失するので、通常は最初から治療を行うことはありません。6か月程度の間隔で経過観察するのが妥当です。中等度異形成(CIN2)の場合でも70-80%の方で自然に消退すると考えられています。3-6ヶ月程度の経過観察を行いますが、中等度異形成(CIN2)が長い間にわたり持続し、さらに感染しているHPVのタイプが問題になる場合は手術が選択肢になります。
 子宮頸部異形成の段階で診断がつけば予後は良好です。しかし子宮頸部異形成になっても症状を示すことがほとんどないので、自覚症状があるので受診して結果検査で見つかったというパターンになることは滅多にありません。したがって早期発見には子宮がん検査がとても重要ですので、20歳以上の女性では2年に1回は子宮頸がん検査を受けるべきと考えます。また過去にHPVワクチンの接種を済ませている方でも子宮頸がん検査が有用であり、検診を受けることが推奨されています。


(4)子宮頸部異形成の治療対象

子宮頸部異形成のうち高度異形成(CIN3)では、今後の経過で子宮頸がんに進行する可能性を念頭に置く必要があります。また外来における検査(生検)は病変の一部を調べるものであり、手術で病変全てを摘出したものを調べる最終的な診断結果と一致しない場合があることも考慮する必要があります。そのため高度異形成(CIN3)は治療の対象にされるべきです。子宮頸がんに進む前に治療することが目的となりますが、治療的診断として前がん病変に留まっているかどうかを確認する意義も大きいものと考えます。中等度異形成(CIN2)では病変が自然消失する可能性も期待できますが、HPVのタイピング検査で16、18、31、33、35、45、52、58 の何れかの型の感染がありさらに中等度異形成が長期間持続している場合は手術を考慮して良いと考えます。


(5)子宮頸部異形成の治療

子宮頸部異形成の治療としては、①子宮頸部円錐切除術、②子宮頸部レーザー蒸散術が挙げられます。これらは子宮を温存し、病変のみに対する治療である点は一致していますが、円錐切除術が病変を切り取る手術であるのに対し、蒸散術ではレーザーにより病変を蒸散消失させる手術です。両者には以下のような特徴があります。
 ①子宮頸部円錐切除術
 病変を摘出する手術で摘出検体から病理検査を行うことができるため、正確な診断をすることができます。その反面で術中や術後の出血(通常では輸血が必要なほどの出血量は想定されません)や子宮頸部が狭くなる頸管狭窄などの合併症リスクは存在します(可能性が高いわけではありません)。また子宮頸部が一部摘出されるため妊娠に対する影響があり、早産や早産により低出生体重児となる頻度がやや上昇するとされています。
 ②子宮頸部レーザー蒸散術
 円錐切除術より低侵襲であり外来手術で実施可能です。出血や頸管狭窄などの合併症の頻度も少なくなります。また妊娠経過への影響もより少ないものと考えられています。しかし摘出物がなく病理検査を行うことができないため、診断としての確実性に欠ける部分が否めません。また術後の再発率が円錐切除術と比較してやや高いとされています。


(6)子宮頸がん

前がん病変では病変は表面の粘膜にとどまっていますが、粘膜の下の層にある間質にまで浸潤があれば子宮頸がんの診断になります。進行度によりⅠ期からⅣ期までに分類されます。そのうちⅠ期は、ⅠA(ⅠA1、ⅠA2)、ⅠB(ⅠB1、ⅠB2、ⅠB3)期に分けられ、最も軽いⅠA1期であれば若年者など挙児希望がある場合において円錐切除術を適用し子宮温存を図ることも容認されます。ⅠB期以上では、手術療法と放射線化学療法(または放射線療法単独)とを組み合わせて治療することが通常です。手術として広汎子宮全摘出術が選択されることが多いですが、この手術の性質上で、術後の下肢のむくみ(リンパ浮腫:リンパ節を郭清するので下肢からのリンパ液の流れが悪くなるため)、排尿障害(膀胱や尿管の近くの手術であり、排尿機能に関係する神経が影響を受けることにより生じる)などを生じる可能性があります。Ⅲ期以上では手術による完全な摘出は困難であるため手術は適応されず、主に放射線化学療法(または放射線療法単独)で治療することになります。
 子宮頸がんが進行すると子宮を喪失するだけでなく、問題となる合併症リスクをはらんだ大きな治療を行う必要性が出てきます。この点からも予防あるいは早期発見がとても重要なことが理解できます。定期的ながん検査を是非行うようにしましょう。